寄生の現場から語り合う
第1回『都市寄生デザイン会議』アーカイブを公開!(Page 2/3)
寄生の『汎用性』と『地域性』
沼:
寄生デザインのひとつの論点に「汎用性」があると思います。例えばボラードは地域ごとに形が違うため、他でもすぐに展開できるかというと意外とそうでもないところが難点だと考えています。
佐々木:
確かに宿主の形状が一定ではないというのは大きな課題です。ボラサイトも、渋谷のボラードにたまたま合うサイズのボイド管があったからやりやすかった。その場その場の形状に合わせる工夫が必要になってきます。
その点、横浜の水辺バーはフレキシブルで、比較的汎用性があるように感じました。
菅原:
手すりの形は確かに一見似ているのですが厚みや幅が微妙に違うため、これまで水辺バーを展開した4カ所すべて、オリジナルでやっています。なので汎用性という点ではまだまだ課題があります。
ただ、一方で各地の特徴を踏まえたオリジナルデザインがあることは、愛着を持ってもらう上ではメリットになるとも思っています。
中島:
汎用性という意味では、同じものを他の場所に持っていくというより、考え方のコアな部分の展開が大事なのではないかと感じました。寄生のデザインは、今あるまちの特徴を掴んでその上に重ねるので、特徴をしっかり読み込むプロセスを踏んでいけば、まち固有のデザインが生まれると思います。
籔谷:
地域の方とうまく連携している事例がありましたが、どんな風に合意形成して進めたのか、どう地域に定着させるかを聞いてみたいです。
永野:
上野の場合は、宿主が商店街財産の街灯であるのも大きいと思いますが、地元ビルオーナーを集めた勉強会をコロナになる前年から行なってまして、それが基盤にあります。デザインの過程で一緒に実物大模型をつくって考えたりと、共感のプロセスが生まれていると思います。
ただ、誰が設置・撤収するかは課題も多く、実は初めの一か月間は私自身、上野に出向いて毎日取り付けていました。すると、徐々に地元の人が通りに出てきて下さるようになりました。協力店舗や許可範囲を広げようと一緒に奔走して下さったのが印象に残っています。
行政や警察との折衝
沼:あ、いま偶然、富山市役所都市計画課の宇津さんが通りかかりましたので少し話して頂こうと思います。
宇津:
許可申請についてですが、警察にとってはボラード自体はあくまで車を止めるもので、車が通っている時に許可はできないというのはわかっていました。そこで、富山では車が通らないトランジットモールの社会実験に合わせて行っているという事情があります。
沼:
道路附属物として、今後どう位置づけをしていくかということも課題であると感じています。
中島:
ボラードへの寄生に関しては、渋谷の場合もやはり車が通った状態で歩道でやるのは難しいでしょうか?
佐々木:
そう感じます。一方で今後の公共空間の在り方を変えていくためには、通常の通行空間が秘めている公共空間としての可能性を示したいと考えていて、日常時のチャレンジをやってみたかったですね。
阿久井:
富山では、歩道部の占用許可のみで実装できるようにボラードテーブルをデザインし、日常利用を目論んでいました。しかしそううまくはいかず、一番初めに車があたる部分が後付けのものであるという点で認められていません。そこを乗り越えるために、富山オリジナルの「ボラード一体型のファニチャー」を新たな展開として考えています。
ここに居ていいんだという認識
中島:
チャットから質問が来ています。
「滞在する人が少ないところで設置し、そこの利用者を増やすために行っている工夫は何かありますでしょうか?」
菅原:
水辺バーの背後にある飲食店に認知してもらうことが必要であると考えています。ポストカードを作成して、利用者含めて取り組みをPRしています。あと背後の店舗に椅子を借りていました。椅子があると「ここに居ていいんだ」という利用者の認識に繋がりやすいと感じています。
永野:
上野では「使いこなし」を色々試しています。「路上オペラ」をガイトウスタンドから観覧する企画とか、今日は沿道の老舗のご協力で、組紐を組むスタンドをつくって体験会をやっています。当初の飲食用途に限らず、地元の方が次々と使いこなしを発想してくださっています。
「多く利用されないといけないのか」というと、そうではないと考えています。ベンチもそうですが、まちのありようとして、「人を迎え入れる」アイコンとして、存在意義があると考えると、通りにあるものがファニチャー化すること自体に可能性があると思っています。
中島:
新たに作るものであれば成果も説得も必要ですが、「寄生」とは今あるものを少し変えることで価値を上げることなので、「使われる」ことがどこまで必要かは考えられそうですね。